とある被疑者の供述(1人劇用)
【一人劇用台本(朗読台本ではありません)】
【男:1、ジャンル:狂気系、ホラー(?)】
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『とある被疑者の供述』
作:レイフロ
刑事/被疑者:
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以下、台本です。
(刑事:被疑者取り調べ前の休憩中)
えーっと…?
今朝8時30分頃、小賀野(こがの)グループ東日本支店のオフィスが入っているビルの7階の窓から、男性2名、女性2名が落下し、死亡。
被疑者は男性、独身、犯行現場のオフィスに務める正社員で、前科なし。
計4名を次々と窓から突き落としたところで、
駆けつけた警備員2名に取り押さえられ現行犯逮捕、か。
犯行当時、容疑者は反乱狂で、
「殺される」
「窓枠が」
などと叫をんでいたとのこと。
どうせ薬物か何かかと思ったが、薬物検査は陰性か。
はぁ…嫌だなぁ。
こういう突発的に爆発するタイプの犯人は、犯行理由がメチャクチャだったりするんだよなぁ。
お前、取り調べ変わってくれよぉ。
……だよなぁ。俺も嫌だよ。
ま、愚痴言ってても仕方ねぇし、さっさと済ませてくるわ。
今日、飲みいくか?
……よし!そうこなくっちゃな!
それを楽しみに取り調べ、頑張ってきますかね~。
俺が取り調べ室に入ろうとすると、
部屋の前にいた刑事から耳打ちされた。
被疑者はとにかく窓を怖がっているようで
先ほどまで暴れまくっていたが、
取り調べ室の格子窓を段ボールで塞いでやったら落ち着いた、と。
めんどくせぇなぁ。
ヤクなんてやってなくても、オカシイ奴は五万といるってわけだ。
俺は一層気が重くなりながらも、取り調べ室に入った。
明かり取り用の小さな窓は、段ボールで雑に塞がれている。
そこには、被疑者の男がひとり、背中を丸めて座っていた。
彼の話はこうだ。
・
・
・
(被疑者の供述)
窓を塞いでくれてありがとう…。
これでようやく落ち着いて話せる。
どうして窓が怖いのかって?
正確には『窓枠』だよ。
窓枠があって、
ガラスがあって、
外に景色が見える。
この状態が怖いんだ。
あー…例えばそこにあるデカいミラーなら怖くない。
マジックミラーっつーんだっけ?
枠はあるけど、窓じゃないからな。
景色は見えないから。怖くない。
窓枠が怖いなんておかしいと思うか?
はは、普通おかしいと思うよな?
そう思う気持ちはよくわかるよ。
俺も今朝まではそうだった。
自分には、こんなおかしな事起こるわけがないって、なんの根拠もなく思い込んでた。
俺は普通で、平凡で、まともだから、って。
でも違うんだ…。
ほら、みんなさ?
「自分だけは車に轢かれるわけがない」とか
今日俺に起きたことだって、きっと誰にでも起こり得ることなんだ…。
俺の頭がおかしいわけじゃない。
いま俺のことを白い目で見てるお前だって、俺と同じ目に合う可能性があんだからな…?
まだアイツを見てないから、そんな涼しい顔してられんだ…
はは…見極められるか見ものだなぁ?
アンタら刑事はそれで食ってんだろ?
は?動機?
何の?
……人を殺した動機???
だから俺は殺人鬼なんかじゃないって何回も言ってるだろ!
動機なんてあるわけがない!
アンタじゃ話になんねぇ!もっとまともなヤツ呼んでこい!
っておい、ちょっと待て、何する気だ!
なに窓の段ボール取ろうとしてんだよ!
俺はふざけてるわけじゃない!ホントなんだ!
ちゃんと順を追って話すから!
だからっ!だからっ!
段ボールは取らないでくれッ!
はぁ…思いとどまってくれてよかったよ…。
さ、最初からちゃんと話すから、
窓だけは、俺に見せないでくれ…。
へへ…でも刑事さん…後悔すんなよ?
『アイツ』はまだ腹が減ってるんだ。
捕まっちまった俺なんか切り捨てて、きっと次の誰かに乗り換えるだろうよ…。
『餌』を調達してくれる誰かに、な。
俺だったらアンタに乗り換えるね!
へ、へへへへ…
そうなっても、恨むんじゃねーぞ…?
俺は昨日から会社で徹夜して一睡もしてないわけ。
朝疲れてぼーっとしてたら、
のんびり出社してきた上司が
ゴミを見るような目で俺を見て、
「資料は出来たのか?」って言うわけ。
「ご苦労様」の一言もないのかよって、
喉元まで出かけた文句を飲み込んでさ、
資料を提出して、
髭も伸びてクマも出来たひでぇ顔を洗って、
ふと便所の小せぇ窓を見たら、
外は青空でさ。
あぁ、ムカつくくらい良い天気だなって思ってたら…
今でも信じらんねぇよ。
変な音が聞こえたんだ。
ジョキン、ジョキンって。
デッカイ「裁(た)ちバサミ」で切るような音だ。
そしたら突然、
窓枠に沿うように、
空が、
景色が、
四角く切り取られたんだ。
・
(刑事に向かって)
…なんだよその顔は?!
どうせ俺のこと、頭のオカシなヤツだと思ってんだろ?
俺はヤク中でもなけりゃ変な宗教にハマってるわけでもない!
ちゃんと聞けよ!!
これは…そうだ!お前が今一番聞きたい
『人を殺した動機』
ってやつに当てはまるかもしんねぇんだからな!?
…で、なんだっけ?
あぁ、空が切り取られたところだな?
切り取られてベロベロに剥がれた景色の下には、
見たこともないような暗闇が広がってやがった。
俺は驚いて便所を飛び出した!
夢でも見てんのかって目をこすったよ!
でも次は、廊下にある窓からまたジョキジョキ音がして、
同じようにベロベロに景色が剥がれ始めた。
怖かったよ…っ
景色が剥がれ落ちたとこからバケモンでも出てきそうな気がして、俺は走った。
オフィスには人がいるから、
早く皆のところに行かねーと、って思って!
でもさぁ。
俺の居たビルは7階。
お前は意識したことあるか?
一つのビルに一体何個の窓があると思う?
街は信じらんねーくらい『窓枠』で溢れてんだよ…。
どこへ行っても窓枠、窓枠、窓枠…!
窓枠という窓枠から景色がベロベロ剥がれて、そこから闇が覗いてくるんだ…!
わかるか?!なぁ?!?
でも俺は気づいたわけ。
どこ行っても窓枠があるなら、目をつむりゃいいんだって。
見なきゃいいんだって!
そしたら次は、地獄みてぇな声が耳の奥で聞こえ始めた…。
『腹減った』、ってさ。
人間を食わせろって言うんだよ!
景色が剥がれた先にある闇は、
俺の足は勝手に窓側に引き寄せられてッ…、
ヤバい…食われる…怖い…
ヤバい食われる怖いヤバい食われる怖い!!
だから俺は!
自分が食われないように
俺は必死で『餌』をアイツの口ん中に突っ込んだ!
肥え太った上司、
仕事を手伝おうともしない同僚、
サボり魔の後輩、
陰口言うしか脳のない新入社員、
ひっ捕まえて、
抱えあげて、
やらなきゃ自分が食われるんだぞ?!
4人はアイツが食べたんだ!
あいつらは俺が落としたから死んだわけじゃねんだ!
食べカスが下に落ちただけ!そうだよ!
これはっ
そうだよ…、これはセイトウボウエイだ!
俺は被害者なのに!どうしてわかってくれないんだっ!
窓枠だっ!窓枠が、アイツのクチで、
ベロベロに景色が剥がれて…
アイツの真っ黒なクチがポカーンって開いて、て、
腹減った、腹減った…って、
嫌だ、助けてくれ!
もう俺はたくさん食わせてやったろ?!
まだ足りないんだったら、次はそこにいる刑事に憑りつけよ!
俺はもう無理だ、捕まったんだから!
俺がこれから行くところの窓には全部鉄格子がついてるんだ!
俺じゃあもうアンタの口に『餌』をぶち込めないっ!
るせぇな!何が落ち着けだ!
お前が話せって言ったんだろうが!
俺は人を殺したんじゃない!
自分が餌になる前に!これはセイトウボウエイなんだ!
ほら、この刑事さんならサイテキだ!
俺なんかよりずっと『餌』をくれるさ!
ここならアタマのイイ刑事さんたちを食べ放題だっ!
は、はは、ははは
次はお前に憑りつくってさ!
ははは!俺の言うことを信じないからだ!
ざまぁみろ!あははははは!
(被疑者の供述、終わり)
・
・
・
奴の供述は終始こんな感じだった。
殺人鬼の思考回路ってのは一体どうなってんだ?
完全にイカレてやがる。
こっちまで頭がおかしくなっちまいそうだ。
はぁ…
あんな興奮状態じゃ取り調べなんて無理だし、とりあえず一服するかぁ。
今や喫煙者の肩身は狭くなる一方で、
何が「窓枠から景色がベロベロに剥がれて」、だ。
アホか。
……ん?
なんの、音だ?
まるで
ジョキン、ジョキン、って、
バカでかい鋏(ハサミ)、みたいな、音が、
嘘、だろ…
嘘だろ嘘だろ嘘だろッ?!?!
・
俺は目を疑った。
見たこともない真っ黒な闇が、
end.
あとがき。
「窓枠から景色がベロベロ剥がれる」という夢を、何度か見たことがあります。
夢の中の場所は、全面ガラス張りみたいな高層のビルの中で、四方は窓枠だらけ。
ベロベロ景色が剥がれる中逃げ惑うという追い詰められる系の酷い夢です。
景色の剥がれ方も、シールを剝がすようにペローンという感じではなく、
出来たばかりのカサブタを無理やり引っぺがすような剥がれ方で、めちゃくちゃ怖かったです。
景色が剥がれた先がバケモノの口の中だったら更に怖いなぁと思って書いてみましたが、
またあの夢を見たときにバケモノ出てきたらどうしよう……(震え声)
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