ミュンヒハウゼンは嘘をつく(4人台本)

⬇台本のPV風の動画作りましたのでよかったらご覧ください( 'ω')/

『ミュンヒハウゼンは嘘をつく』

【ジャンル:シリアス】
【所要時間:40分】

●上記イメージ画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。

●ご使用の際は、利用規約をご一読下さい。

【人物紹介】
ソフィア・フォン・ランシュタイン♀(5→18歳)
クラウスの一人娘。幼い頃母を亡くす。
セリフ数:55


クラウス・フォン・ランシュタイン♂(30→43歳)
ランシュタイン家の当主。やり手ではあるが、直情型の性格。
※「N1」兼役です。
セリフ数:53(N1込み)


カミル♂(15→28歳)
若くしてランシュタイン家の執事として働く。ソフィアのお守りでもある。
セリフ数:58


リチャード・アーバスウィル♂(25歳)
アーバスウィル家の三男。ソフィアに惚れて、クラウスにソフィアとの交際許可を乞う。
※「N2」兼役です。
セリフ数:62(N2込み)




【演じる際の注意点】
台本中にキャラクターの参考年齢が書いてありますが、あまり細かく声を変える必要はありません。
「若い時」と、「成長した時(年取った時)」、くらいの大雑把な演じ分けで大丈夫です。




↓生声劇等でご使用の際の張り付け用
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ミュンヒハウゼンは嘘をつく
作:レイフロ
ソフィア♀:
クラウス♂+N1:
カミル♂:
リチャード♂+N2:
https://reifuro12daihon.amebaownd.com/posts/15851592
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以下、台本です。


N1:
貴方は、「ほら吹き男爵」こと、
プロイセン貴族のミュンヒハウゼン男爵をご存知ですか?
彼は話好きで、館に人を招いては、
自身の冒険譚(ぼうけんたん)をおもしろおかしく話して聞かせたという。

N2:
彼の名は、のちに、虚偽性障害の一種と分類される
「ミュンヒハウゼン症候群」という精神疾患の名称に命名されるほどでした。
虚偽とは、つまり「嘘」。
大げさに事(こと)を言うだけだった「ほら吹き」の彼は、
周りから見れば 『嘘つき』 になってしまったのです。

N1:
「なぜ今そんな話を?」とお思いの貴方?
これから語られる物語には、
ミュンヒハウゼン男爵のような『嘘つき』が登場するのです。
舞台は、貴族・ランシュタイン家の屋敷から始まります。

N2:
屋敷の主人、クラウス・フォン・ランシュタインは、
美しい妻と可愛らしい娘を持ち、
有能な執事を雇い、金に一切困らない暮らしをしていました。
ですがある日、弾みで、自分の妻を殺してしまいます。

N1:
動転した彼が、その罪を自分の娘に擦(なす)り付けようとするところから始まります。
この物語における『嘘つきのミュンヒハウゼン』は一体誰なのか。
ぜひ、思考を巡らせながらお楽しみ下さい。

N2:
でもお気を付け下さい?
『嘘つき』にばかり気を取られて い る と ……
おっと、これ以上言っては楽しみがなくなりますね!




N1:
それでは、『ミュンヒハウゼンは嘘をつく』、開演でございます。













N2:
ランシュタイン家ご令嬢、ソフィア様、五歳。
とある日の夜中。キッチンにて。


(※参考年齢:ソフィア5歳、カミル15歳、クラウス30歳)


ソフィア:
お父さま…お母さまはどうしてしまったの?

クラウス:(震え声で)
…眠って、しまったんだ…

ソフィア:
キッチンで?

クラウス:
きっと疲れたのだろう…

ソフィア:
私が今朝、クッキーをもっと焼いて下さいとムリにお願いしたから…?

クラウス:
そうだな…そう、かもしれない…

ソフィア:
そんな…っお母さま…起きて、お母さまぁぁ!

クラウス:
ソフィア…なぜこんな夜中に起きてきた…!?
お前が突然部屋に入ってきて、私にぶつかったから…
弾みで、こんなことに…っ!
刺すつもりなど…なかったのだ…
お前のせいだ!何て娘だっ!ふんっ!
(娘の頬を叩く←手を叩いて音を出して下さい)

ソフィア:
あうっ!

(SE:扉が開く音)

カミル:
旦那様、どうなされました…
ハッ!お止め下さい!

クラウス:
どけカミルっ!!使用人の分際で主(あるじ)の邪魔をする気か!!
この子のせいで、この子のせいでッ…!

カミル:
お嬢様はまだこんなに小さくていらっしゃいます!どうか手をあげるのは…
(倒れている奥方に気付く)
…お、奥様?!…し、死んで、る…

クラウス:
こ、これは違う…私がやったんじゃない!

カミル:
ですが、包丁が腹部に刺さっています!ご主人様でないとしたら…

ソフィア:
わたしがワガママをいったから…お母さまは眠ってしまったの。
ごめんなさい、ごめんなさい…!

クラウス(心の声):
(これは事故だ…私は妻と口論になり包丁を向けはしたが、刺すつもりではなかった…。
そうだ…
ソフィアが私にぶつかって来たのだから、
ソフィアが刺したようなものだ…!)

クラウス:(カミルに耳打ちする)
ソフィアが刺したのだ。
今朝わがままを聞いてもらえなかったから腹を立てたのだろう…

カミル:
そ、そんな!まさかお嬢様が…?!

ソフィア:
ふ…ぐす…お母さまぁぁ…

クラウス:
み、見ろ、娘もこんなに反省している!
まだ善悪がよくわかっていないんだ!
そうだ…妻は事故で死んだことにしよう!
お前が口裏を合わせてくれればどうとでも誤魔化せる!

カミル:
で、ですが…!

クラウス:
娘を守るためだ!
お前は、世間から娘が「母親殺し」と罵られてもいいというのか?!

カミル:
それは…っ!
わかり、ました。
お嬢様を、お守りするために…。













N2:
ソフィアお嬢様、六歳。
ランシュタイン邸、子供部屋にて。


(※参考年齢:ソフィア6歳、クラウス31歳)


クラウス:
ソフィア、何をしている?
人形がバラバラじゃないか。

ソフィア:
お人形の頭を取り替えてるの。
ジェニファーちゃんのお洋服の方が、ティファニーちゃんには似合うでしょ?

クラウス:
そういう時は、首を取り替えるのではなく、
服の方を着せ替えるんだよ?

ソフィア:
え?首を取り替えた方が早いよ…
あっ!

(SE:パキッ←壊れたような音)

クラウス:
ほら…乱暴に扱うから、壊れてしまったぞ?

ソフィア:
お父様…。
ティファニーちゃんは死んじゃったの?

クラウス:
あぁ…。
ティファニーちゃんは、
お前が殺したんだ。











N2:
ソフィアお嬢様、七歳。
ランシュタイン邸、2階の廊下にて。


(※参考年齢:ソフィア7歳、カミル17歳)


ソフィア:(泣きながら)
カミルぅ…
私…悪いことをしてしまったの。

カミル:
お嬢様、何かあったのですか?

ソフィア:
さっき、お父様の書斎でこっそりかくれんぼしていたら、
お父様とヨランダが入ってきて、ケンカを始めたの…。

カミル:
メイド長のヨランダですか?

ソフィア:
うん。ヨランダはお給金がどうの、と大きな声を出したわ。
そうしたら次はビチャビチャと水の音がして、
私、隠れていた机の下からびっくりして顔を出したの。

カミル:
お二人は何をされていたのですか?

ソフィア:
あそこには大きな水槽があるでしょう?
そこにね、ヨランダがお顔を突っ込んでいたから、どうしたのって聞いたわ。
そうしたら…





N2:
今から30分前。クラウスの書斎にて。

クラウス:
ヨ、ヨランダが魚をもっと近くで見たいと言うからっ…
こうやって頭を押さえてやっているのだ…
はは、ほら、遠慮せずもっと深いところの魚も見なさ、いっ!

(SE:水バチャバチャ)

ソフィア:
そうなんだ!
ヨランダ、そんなに暴れたらお魚さん逃げちゃうよ?
よく見たいのなら、もっと静かにしないと。

クラウス:
ソフィアの言う通りだ!
ふふ、大丈夫だソフィア。
もうすぐヨランダは静かに魚を鑑賞することが出来るようになるからな?

N2:
ヨランダはゴボゴボと不快な音を立てた後、
クラウスの言う通り、途端に静かになった。
その後は、瞬きもせずに魚達を見つめていたと言う。




カミル:
なんて、ことだ…。

ソフィア:(泣きながら)
お魚さんを見終わったヨランダは動かなくなってしまったの。
私が「よく見たいならもっと静かにした方がいい」と言ったせいで、
ヨランダは無理をして死んでしまったのだとお父様は言ったわ…ひっく…

カミル:
そんな…。
辛かったですね…ほら、もう泣かないで下さい。

ソフィア:
ねぇカミル、ヨランダは私が殺しちゃったの…?

カミル:
…お嬢様が心配するようなことは何もございません。
後のことは全てお任せ下さい。

ソフィア:
ありがとうカミル!
カミルはずっと私の味方でいてくれるもんね?!

カミル:
もちろんでございます、ソフィアお嬢様。










N2:
ソフィアお嬢様、十七歳。
大広間中央の階段にて。
ランシュタイン邸の主・クラウスの悲鳴がこだまする。


(※参考年齢:ソフィア17歳、カミル27歳、クラウス42歳)


クラウス:(階段から落ちる)
ぎゃあああああ…っぐ…うぅう…

カミル:
旦那様っ?!大丈夫ですか?!しっかりなさって下さい!

クラウス:
カ、ミル…!
娘に…ソフィアに…階段から、突き落とされた…っ

カミル:
なんですって?!

N2:
カミルが、二階へと通じる階段の先に視線を移すと、そこにはソフィアが立っていた。

カミル:
お嬢様…

ソフィア:
カミル、お父様は足を滑らせて誤って落ちてしまわれたの!
私が押したのではないわ。

クラウス:
嘘、だ…!確かに、ソフィアに背中を、押されたのだ…っう…!

カミル:
旦那様、脳震盪(のうしんとう)を起こしているかもしれません!お部屋に参りましょう。

ソフィア:
お父様は大丈夫?なんともないわよね?

カミル:
見たところ骨折もなさそうですし、しばらく安静になされれば大丈夫ですよ。

ソフィア:
よかった…。

クラウス:(ぶつぶつと)
娘に、階段から突き落とされた…
あぁ…なんて恐ろしい娘だ…あぁ…


カミル(心の声):
奥様やメイド長のヨランダが死んだ時も、
旦那様は、「娘のせいだ」と必ず罪をなすり付けておられる。
そして今回も、ちょうど近くにいたお嬢様に「背中を押された」などと…。
このままでは、いつかお嬢様に危険が及んでしまう。

私がお嬢様をお守りしなければ…。

ソフィアお嬢様を傷つけるあらゆる害悪を、
排除しなければ。













N2:
10分後。
クラウスの書斎にて。


クラウス:
う…うぅ…頭が痛い…カミル、医者を…医者をぉ…

カミル:
本当にお嬢様が旦那様を階段から突き落としたのですか?
失礼ながら、勘違いでは…?

クラウス:
何を言うか…!
娘は、自分の母もヨランダも死に追いやったのだぞ!
私も殺される…!殺されてしまう!!

カミル(心の声)
(錯乱していらっしゃる…このままではいけない。
お嬢様をお守りするために、この方はもう、必要ない)

クラウス:
ああ頭が痛い、割れ、そうだ…医者はまだかぁ…!
カミル!医者だ…いや警察だ!殺人鬼が、娘が、…
書斎に鍵をかけろ!
殺される…私はここから一歩も出んぞ!
ああ頭がぁ!…私はここから動かん!
何があってもだ!わかったな、カミル!


カミル:
はい、旦那様。
…仰せのままに。












N2:
ソフィアお嬢様、十八歳。
ランシュタイン邸、ダイニングにて。


(※参考年齢:ソフィア18歳、カミル28歳)


ソフィア:
ねぇ、カミル!カミルったら!

カミル:
騒々しいですよ?お嬢様も十八。
もう少しおしとやかして頂きたいものです。

ソフィア:
はいはい!
そんなことより、この間ココに来た彼、名前は何て言ったかしら?

カミル:
どの彼のことでしょう?
お嬢様はお好みが雑多すぎて、どの恋人候補のことをさしておられるやら。

ソフィア:
ほら、金髪で細身の…3日前に来た人よ!

カミル:
リチャード様?

ソフィア:
そう、リチャード!
テーブルマナーも身だしなみも言葉遣いも完璧だったし、彼を恋人に決めようかしら。

カミル:
リチャード様はいけません。
右手の拳に傷がありました。あれは人を殴った時に出来る傷です。
もしかしたら、リチャード様には暴力を振るう習慣があるのかもしれません。

ソフィア:
まさか!あんなに優しそうだったのに?

カミル:
優しいフリならミジンコでも出来ます。

ソフィア:
ミジンコに優しくされたことがあるの?

カミル:
えぇ。顕微鏡越しに。

ソフィア:
(皮肉っぽく)それはロマンチックね。
ところでカミル、お父様はどこ?

カミル:
書斎にいらっしゃいます。

ソフィア:
あなたは、ついこの間も半年前も1年前もそう言ったわ?まだ書斎にいらっしゃるの?

カミル:
はい。旦那様は、「自ら」足を滑らせて階段から落ちられてから、歩けなくなられました。
思慮深い方ですから、書斎で静かに考え事をされているのでしょう。
寂しいのでしたら、私が寝る前に本を…

ソフィア:
もう!いじわるね!部屋に行くわ!

(SE:走り去る音)





カミル:
…さてと。
やることも溜まっていますが、まずは旦那様のご様子を見に行くとしましょうか。










N2:
ランシュタイン邸、主(あるじ)、クラウスの書斎にて。


クラウス:
3日間もこの部屋にいて、まだ暴れる元気があるとはなぁ。

リチャード:(縛られている)
一体どうなってるんだ!なぜ俺がこんな目にっ!

クラウス:
まぁそうイライラすることもなかろう?時間はいくらでもあるのだ。

リチャード:
あの腐れ執事どこいきやがった!もう耐えられねぇ!

クラウス:
棚にあるウィスキーでも飲むといい。
気分が落ち着くし、なによりどれも年代物の上等な酒だぞ?

(SE:ノックの音)

カミル:
失礼いたします。
旦那様、リチャード様とのお話し合いは進みましたでしょうか?

クラウス:
おお、カミルか!
それがなかなか上手いこと話が進まんのだ。どうしたものか…。

リチャード:
おい貴様!いい加減にしろ!こんなことしてタダで済むと思うなよ!!

カミル:
リチャード様、この屋敷に訪れた時は、美しい言葉遣いでしたのに…。

リチャード:
監禁された相手に尽くす礼などない!!

クラウス:
ずっとこのような調子なのだ。参ってしまうよ。
ソフィアに交際を申し込みたいというから、話を聞いてやろうと言うのに。

カミル:
旦那様、やはりリチャード様は、お嬢様のパートナーとしてはふさわしくないかと…。

リチャード:(怯えるように) 
つかお前、さっきから誰に話しかけてるんだ…?
旦那様って誰だよ?!

クラウス:
カミルの主は私に決まっておろう?
はぁ…家柄も容姿も問題なかったのだが、残念なことだ。

リチャード:
もうたくさんだっ!頼む、もう帰らせてくれっ!!

クラウス:
帰りたいとはどういうことだ。
私の大事な娘が欲しいというのは嘘であったのか?!なんという奴だ!

カミル:
このような無礼者はきっと、
帰ればお嬢様の悪口を、あることないこと周りに吹き込んで回ることでしょう。

クラウス:
なんだと!それは許せんっ!!

リチャード:
頼む…もうやめてくれ…!頭がおかしくなりそうだ!

クラウス:
ふむ、どうしたものか…。

カミル:
旦那様。リチャード様を帰してはなりません。

リチャード:
旦那様旦那様って、あんたはっ…
あんたは一体 『誰と』 喋ってるんだッ!!?!!??!

クラウス:
カミル、こやつは何を言っておるのだ?

カミル:
私にもわかりかねます。
私は、『そこにおられる』旦那様と喋っておりますが…?

リチャード:
おまえ、まさか本気で『ソレ』と会話してるのか…?

クラウス:
私を見て『ソレ』とは失礼な!

カミル:
リチャード様は、お嬢様が手に入らないと判って狂ってしまわれたのでしょう。

リチャード:
狂ってるのはテメーだ執事野郎!よく見ろ!
さっきからテメーが旦那様って呼んでるのは…
どう見ても『 骸骨 』じゃねーかっっっ!!!

クラウス:
ははは!私のことを「骸骨」とは!
確かに、お前の言う通り、こやつは狂ってしまったようだな。

カミル:
そのようですね。残念です。

リチャード:
この、椅子に座った骸骨が…お前の『旦那様』なのか?!
執事野郎…まさかテメーが自分の主を殺したのか?!?

クラウス:
カミルが私を殺した…?
ははは!なにやらミステリーのような展開になってきおったなぁ?

カミル:
面白くなってまいりましたが、
狂ってしまった者を、お嬢様の婚約者候補とするわけにもいきません。

クラウス:
そうだな。
カミル、この者の処理を頼んだぞ。

リチャード:
おい…手袋なんか嵌めて、な、何をする気だッ?!

カミル:
あなたはお嬢様にはふさわしくない。
これは旦那様による決定事項です。
(ナイフを取り出す)

リチャード:
ナイフ…あ…、よせ、やめろ…!

カミル:
さようなら、リチャード様。

リチャード:
くっ…!ちくしょー!!!(縄を解いて駆け出す)

クラウス:
なに?!こやつ!いつの間に縄をほどきおった!

カミル:
逃がしませんよっ!(ナイフで切りつける)

リチャード:
ぐっ!いってぇ…!っざけんな、これでもくらえ!(水差しを投げつける)

SE:ガチャーン(割れる音)

カミル:
なっ…!

リチャード:
今のうちにっ…!

(SE:走り去る音)





クラウス:
…まんまと逃げられてしまったな。
数年来(すうねんらい)ずっと同じ縄を使っていたせいで劣化しておったのだろう。
今まで、ソフィアに言い寄る男どもを何人「処理」してきた?
お前は本当にいつまで経っても爪が甘い。
私を見殺しにした時だって……
ん…???

カミル:
どうされましたか?旦那様。

クラウス:
私は…見殺しにされたのか…?
お前に…??

カミル:
ようやくお気づきになられましたか?

クラウス:
私はあの時、階段から落ちて…
その後お前は医者も呼ばずに…
頭を打った私を放置して、見殺しに、した…?

カミル:
階段から落ちられて、二日後にはお亡くなりになりました。
亡くなられてから、もう1年ほど経っております。

クラウス:
私がこの椅子から動けぬのは、足が悪くなったからではない…
すでに骸骨だからか!ははははは!
では私は幽霊か?それともお前の妄想の産物か?!
まさかこの私が、1年も前に執事風情に見殺しにされていようとは!はは…はははは!

カミル:
失礼ですが、旦那様。
何をおっしゃっているのですか?

クラウス:
…なんだと?

カミル:
見殺しにしたのは私ですが、
そもそも旦那様が階段から落ちたのは、何故だかお忘れですか?

クラウス:
あ…?
あああああ!なんということだっ…!
思い出したぞ…私は、
…悪魔に…突き落とされた…!!

我が娘、ソフィアに…!

殺されたッ…!!












リチャード:
はぁ、はぁ…冗談じゃねぇ、あの執事まじでイカレてやがる!
ソフィアの口ぶりからして、自分の父親が死んでることは知らないはず…。
あの腐れ執事に騙されてるんだっ!
この屋敷にいたら何されるか分かったもんじゃねぇ。助けないと!
確か、ソフィアの部屋も2階だって言ってたな。この辺りか…?

(SE:扉を開ける音)

リチャード:
ソフィア!助けに…

ソフィア:
きゃあ!えっ、なに?!やだっ…

リチャード:
あっ!わりぃ!着替え中だったなんて…
あ、いや、でもそれどころじゃないんだが、あ、でも

ソフィア:
ちょっと待って、あなたリチャードじゃない!
しかも大変!その腕、怪我をしているわ!

リチャード:
え、あぁ、大丈夫だ。
それよりちょっ…とにかく何か羽織ってくれ!

ソフィア:
きゃっ!ごめんなさい!私ったら…(カーディガンを羽織る)

リチャード:
急いで最低限必要なものだけ纏めてくれ!
俺と一緒にここから逃げよう!

ソフィア:
へ?どういうことなの?

リチャード:
3日前初めて会った時、あんた言ってたよな?ここの主は書斎に籠ってるんだって!
あんたと会食が終わった後、
俺はあの執事に連れられて書斎に行ってきたんだ。
あんたの父親に挨拶するために!

ソフィア:
えぇ、知っているわ。
でもいつまで経っても戻ってこないからカミルに聞いたら、
「リチャード様はお父様に嫌われてしまったから、そのままお帰りになった」って…。

リチャード:
違うんだ!
あの部屋で俺は変な薬を嗅がされて、監禁されていたんだ!

ソフィア:
え、なに?意味がわからないわ…。
どうしてあなたを監禁しなければならないの?

リチャード:
知らねーよ!
俺がアンタに好意をよせちまったからじゃねーのか?!

ソフィア:
こ、好意?!あ、えっと…だとしてもどうして

リチャード:
ヤバいのはあの執事だっ!
早く逃げないとアンタもきっと大変な目に合うぞ…!

ソフィア:
カミルは、小さい頃からずっと私の面倒を見てくれているのよ。そんなオカシな人じゃないわ!

リチャード:
アンタの父親が書斎で死んでても、何もおかしくないって言うのか?

ソフィア:
何を、言ってるの?
お父様が、死んでいる…?

リチャード:
書斎の豪勢な椅子に、服を着たままの骸骨が座っていた。
執事のヤロー、その骸骨と『会話』してやがった。

ソフィア:
そ、そんな…嘘よ…!
お父様は書斎で色々考え事をしていらっしゃるって、カミルが…!

リチャード:
あんなの尋常じゃねえ!
この家の主がまだ生きているとアンタに思い込ませて、
裏ではアンタに言い寄る男を排除して…
アイツはこの屋敷を乗っ取るつもりなんじゃねーか?

ソフィア:
そんな、…わからない、わからないわ。
カミルはいつだって私のことを守ってくれていた…


カミル:
ソフィアお嬢様にオカシなことを吹き込むのはやめて頂けますか?リチャード様。


リチャード:
てめぇ…!
やっぱりソフィアも自分の父親が死んでたって知らなかったじゃねーか!
テメーが殺したんだろう?!

ソフィア:
カミル…本当のことを言って?
お父様を殺したの?

カミル:
はい。私が見殺しにしました。

リチャード:
はは、認めやがった…!コイツは頭のオカシな殺人鬼だ!
さぁソフィア、俺と逃げよう!

カミル:
いけませんお嬢様。
リチャード様の拳には傷があります。
きっと習慣的に暴力を振るうのですよ!

リチャード:
これは、この屋敷に来る前に、
街の女が暴漢に絡まれていたのを力づくで助けただけだ!
俺は、アーバスウィル家の三男…
家督(かとく)が回ってくることはないから、
出歩くときに護衛も執事もいねぇし、
何でも自分でやるしかねぇ。

カミル:
だとしても、この屋敷に来た時は美しい言葉使いでしたのに、本性が出ているではありませんか。

リチャード:
そりゃあ最初は、こんなデカい家の令嬢とうまくいけば、俺も地位を確立出来るかって思ったよ!
でも、ソフィアと話してたら…っ、
本当に惚れちまったんだ…!
こんな気持ちは、初めてだった!

ソフィア:
リチャード…

リチャード:
ソフィア…。明るいアンタの心の中に、どこか悲しくて暗い部分がある気がして…
俺と少し似てるって思ったんだ。
俺たちは一緒にいるべきなんだって確信したんだよ…!

カミル:
みな、骸骨となられた旦那様を見ると、
恐れ慄(おのの)き、命乞いしたり逃げようとしました。
誰もお嬢様の行く末を案じるものなどいなかった。
でもリチャード様は、お嬢様を助けるためにすぐには逃げなかった。
合格、と言いたいところですが、もう少し私に確信させて下さい。
貴方がソフィアお嬢様を本当に幸せに出来る男なのかを、ね…!!

N1:
カミルは、短剣を手にリチャードに襲い掛かるも、リチャードは身をよじりそれを回避。
逆に、カミルの短剣を持つ右腕を抑え込んだ。

リチャード:
ぐっ!!ソフィア逃げるんだ!こいつは頭がイッちまってる…!

ソフィア:
そんな…!カミル、こんなことやめて!!

カミル:
旦那様は狂っておいででしたっ…
奥様を殺し、メイド長も殺し、きっと女性を殺すことに憑りつかれていたのです…!

リチャード:
なんだって?!
じゃあアンタはソフィアの身を案じて、自分の主を見殺しにしたってのか?!

カミル:
あのままでは旦那様はいつかお嬢様まで殺してしまったでしょう…!
私は、こんな数奇な運命のお嬢様を、
確実に守ってくれる騎士を探しているのですッ!

N1:
カミルはリチャードを振り払い、短剣を横に薙(な)いだ。
リチャードの左腕がスパっと深く裂けて、真白の壁に鮮血が飛び散る。

リチャード:
ぐっあ!!

ソフィア:
きゃああ!

リチャード:
くそ…!アンタは間違ってる!
アンタも何かに憑りつかれちまってるんだよ!目を覚ませ!!

カミル:
うおおおおおお!!

N1:
カミルが血走った目で突進してくる。
リチャードは素早くあたりを見回し、
サイドテーブルにあった寝酒用のウイスキーを手に取ると
床に叩き付けて割り、壁にあったランタンも同時に叩き付けた。

カミル:
ぐっ…!!

N1:
あっという間に火柱が立ち、カミルとリチャードとの位置は分断された。

ソフィア:
カミル!カミル!!早くこちらに!
そっち側にはベッドも本棚もあるわ!すぐに火が回ってしまう…!

リチャード:
何してるソフィア!こっちはドア側だ!今のうちに逃げるぞ…!!

カミル:
お嬢様…どうか…

ソフィア:
離してリチャード!!カミルが…!
嫌よ!カミル!!!!

N1:
リチャードは、嫌がるソフィアを肩に抱えて無理やり駆け出していった。
カミルの周りには、火が立ちどころに広がり、ゴウゴウと不気味な音を立てている。

カミル:
3日間骸骨のいる部屋で監禁され、
その後腕に裂傷を負っても、お嬢様を抱えて助け出すとは…

合格です。リチャード様。

どうか。
どうかお嬢様を、幸せに…







N1:
火の勢いは留まるところを知らず、
あっという間に屋敷全体を包み込み、すべてを燃やし尽くした。
焼け跡からは、この屋敷の主人と、執事と思われる男性、2名の骨が見つかった。
そして、屋敷の設計図には記されていない秘密の地下室も見つかる。
そこで見つかったのは、
以前この屋敷に務めていたメイド長と思われる女性の骨と、
身元不明の男性の白骨死体が5体ほど発見された。










N1:
三か月後。


リチャード:
ただいま!
ふう…疲れたぁ。

ソフィア:
あなた、お帰りなさい。お疲れさまでした。

リチャード:
お~!旨そうだな!君が作ったのか?

ソフィア:
えぇ、まだお料理も家事も慣れないけれど、私頑張るわね。

リチャード:
ごめんな。本当は俺の屋敷に君を呼べたら良かったんだけど…。

ソフィア:
ううん、あんなことがあった家の女と結婚するなんて、反対されてもしかたないことよ。

リチャード:
でも君だって被害者じゃないか。
地下で見つかった白骨体は、恐らく、君に結婚を申し込もうとした男達だろう?
あの執事が、君にふさわしくない者を片っ端から殺してたんだな…。

ソフィア:
カミルが大量殺人鬼だったなんて、今でも信じられないけど、
そんな人と私はずっと一緒に暮らしてきた。
気味が悪いと思われて当然だわ。
それなのに貴方は、自分の家よりも私を選んでくれた…。
貴族を捨てて、肉体労働をしてでも私と一緒になってくれた。本当に感謝しているの。

リチャード:
貴族と言っても爵位(しゃくい)はずっと下だし、
俺は三男で、正直、居ても居なくても同じだったんだ。
そんなところに縋(すが)るよりも、俺を必要としてくれる美しい君と一緒になれたんだ。
肉体労働だってなんだってするさ!

ソフィア:
頼もしいわね。

リチャード:
むしろ君には申し訳ないよ。狭い部屋で慣れない家事なんてさせて。
お嬢様の生活とは天と地の差だろう?

ソフィア:
いいの…。
私は全てを失ったけど、でもその代わりリチャードがいてくれるわ!
私のために 「何でもしてくれる」リチャードが。

リチャード:
あぁ。
君と一緒にいるためなら、
俺は「なんだって」するよ。



ソフィア:
リチャード?
今日ね、数軒先のパウルさんが、私とすれ違い様に体を触って来たの…。
細い路地を通った私が悪いのだけど…。
きっと気のせいよね?
たまたま手が、「間違って」胸に触れてしまっただけよね?

リチャード:
そうさ、たまたまだよ。
パウルさんがそんなことするはずがないさ。
ここに来たばかりの頃、鹿肉を分けてもらったろう?

ソフィア:
そうだったわ。パウルさんはいい人ね。

リチャード:
いい人だ。
そうだ!いつもの礼に、今度、彼と鹿狩りに行ってくるよ。

ソフィア:
それはいいわね。
…でも、大丈夫かしら?

リチャード:
何がだい?

ソフィア:
夢中になって狩りをしていると、
人の影も鹿に見えたりして、
間違えて撃ってしまわないかしら?

リチャード:
人の影も…
鹿に……?

ソフィア:
えぇ。
私の体を触ったパウルさんの影も、
鹿に見えたりしたら大変ね…?



リチャード:
……大丈夫。

気を付けるよ。

「間違って」、
彼を撃ってしまわないように、ね。













End.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

~あとがき~
嘘つきの話を書きたくて書き始めたのですが、
こんがらがりすぎて、いつもはプロットとか書かないのに、
珍しくメモを取りながら書きました。
全ての出来事はソフィアの掌の上だったんでしょうか?
それとも、たまたまソフィアの周りが狂ってる人ばかりだっただけ…?

でも一つはっきりしていることは、
リチャード&ソフィア夫妻の隣人、パウルさんはこの後、鹿に間違われて撃たれるという「事故」に合うのでしょうね。



※注釈
ソフィアの部屋に寝酒用のウイスキーが置いてあるくだりがありますが、名前的に舞台はドイツあたりをイメージしているので(厳密ではありませんがwリチャードはイギリスっぽい名前だしw)、ドイツでもイギリスでも18歳はお酒が飲める年齢となっております。ご参考まで(*´ `*)

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