a Witch(4人台本)
『a Witch(ア・ウィッチ)』
【ジャンル:シリアス/狂気/恋愛】
【所要時間:40〜45分程度】
●上記イメージ画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。
●ご使用の際は、利用規約をご一読下さい。
↓PV風動画作成しましたので、良ければぜひご覧ください。
【人物紹介】
エレーナ ♀
森の中に住む柔らかい雰囲気の女性。年齢不詳。イフと共に住んでいる。
イフ(不問)
少年。とても大人びている。エレーナと共に住んでいる。
※医者も兼役でお願いします。医者の性別は、演者様の性別と同じにして下さい。(女性なら女医で)
ロレンツ ♂
恋人・シャーリーと共にハンティングの最中、森の中で迷う。
ガタイはいいが、恋人想いの優しい性格。
シャーリー ♀
ロレンツの恋人。恋人の勇姿を見たいとハンティングについていく。
普段はツンデレだが、本当は恐がり。
★演じる際の注意点。
・初見読みで演って頂いてもかまいませんが、シャーリー役の人は後半注意が必要です!
どう注意が必要なのかはネタバレになるのでここには書きませんが、シャーリー役の方はラストの方を確認しておいた方がいいかもしれません。
(台本中にもどんな風に演じて欲しいか注意書きがあるので、そこだけでも目を通してから演って頂いた方がいいかも)
↓生声劇等でご使用の際の張り付け用
――――――――
『a Witch』
作:レイフロ
エレーナ:
イフ+医者:
ロレンツ:
シャーリー:
https://reifuro12daihon.amebaownd.com/posts/21561292
――――――――
以下、台本です。
イフN:
全ての始まりは、森の中。
広大なその森は、奥に行くにつれて地場が狂い、遭難者が多発したため、禁止区域が設けられた。
人々はその禁止区域を避け、安全な範囲内で資源伐採や狩りを行っていた。
「迷いの森」や「魔女の住む森」として、
絵本などの題材にも多く使われてきた森だったが、
実際に「魔女に遭遇した」という話は一つもなかった。
それもそのはず。
森で行方不明になったとされる遭難者たちは、誰一人として戻っていないのである。
シャーリー:(怯えながら)
ねぇ、こんな森の奥に家があるって変じゃない?ここ禁止区域よね?
魔女でも住んでそう…
ロレンツ:
そういえば昔読んだ絵本で、魔女がイーヒッヒッヒって笑いながら
イモリやムカデが入った鍋をかき回してたなぁ。
確かこの森が舞台だったけど、あんなの現実にいるわけないだろー?
シャーリー:
そう、よね…。永遠の魔女、だっけ?
あの絵本は、子供が興味本位で森に入らないようにするための戒(いまし)めみたいなものよね…?
ロレンツ:
そうそう。ばあちゃんが生きてた頃は、
「あの森に入ったら二度と出てこれない」なぁんて言ってたけど、昔の話だろ?
今は捜索隊だっているだろうし…多分。
シャーリー:
多分?!多分なの?!
ロレンツ:
大丈夫だって!
まったく、どうしてこう女ってのは怖がりなんだ?
シャーリー:
なによぉ。だって不気味じゃない。
ロレンツ:
ま、そういうとこ可愛いけどな?お前普段はツンツンしてるし。
シャーリー:
ツンツンなんてしてないもんっ!
じゃーあなたは怖くないっていうの?
ロレンツ:
別に怖くないよ。禁止区域超えたのは確かに初めてだけど、
この森には狩りで何度も来てるんだ。
とりあえず陽も落ちてきたし、あの家に泊めてもらえないか話してみよう。
シャーリー:
そうね…狼でも出たら困るわ。
(SE:扉を叩く音)
ロレンツ:
あのぉ、すみませーん!どなたかいらっしゃいますかー?
(SE:扉を開く音)
イフ:(恐る恐る)
あ、あなた達…どうやってここに…?
ロレンツ:
あ、えーと、キミ、親御さんは居るかな?
僕たちはその、森で迷ってしまって…
イフ:
…今すぐ引き返してください。
この辺りはその…危ないんです。
ロレンツ:
いや、帰れるものなら帰りたいんだが、道を知ってたら…
エレーナ:
あら、お客さん?
イフ:
エレーナ!
えっと…この人たち、森で迷っちゃったらしくて…帰り道を教えてあげたら?
エレーナ:
もうすぐ夜が来るわ?暗くなればまた迷ってしまうかも。
見たところお疲れのようだし、入ってもらいましょう。
イフ:
で、でも、もしこの人たちが強盗だったら…
エレーナ:
イフ!失礼でしょう?
ロレンツ:
あ、いえ、その子の言う通り、心配するのも無理はありませんが、決して怪しいものではありません!
この銃は狩りのためのものでして、証明書も持っているので見て下さい!
俺はロレンツと言って、彼女はシャーリー。
シャーリー:
突然押しかけてしまってすみません、でも私たち本当に困っていて…
一晩だけでいいんです、玄関先でいいのでお貸し頂けたらと…。
エレーナ:
そんな玄関先だなんて。
いいのよ、お入りになって?
お客様はひさしぶりだから嬉しいわ!
イフ:
……。
シャーリー:
すみません、お邪魔します。
ロレンツN:
最初に出てきた少年は、イフ、とか呼ばれていた。変な名だ。
俺たちを警戒しているのか、あまり乗り気でないように見える。
そしてあとから出てきたのは、エレーナという女性。歳は…わからない。
大人びた10代のようにも見えるし、幼い30代のようにも見える。不思議な人だ。
エレーナ:
今からシチューを食べるところだったの。
来るとわかっていたらもっとたくさん作ったのに…。
イフ:
まだ口をつけてないから、僕のを食べない?
今ちょっと食欲がなくなっちゃって…
ロレンツ:
そうかい?じゃあ遠慮なく…
シャーリー:
ちょっと!そこまでしてもらったら悪いわ!
ロレンツ:
でも日帰りの予定だったから食べ物はあまり持ってきてないんだ。
お前だって腹減ってるだろ?
シャーリー:
そうだけど…
エレーナ:
遠慮なんてする必要ないわ。イフ、全然食べないなんてダメよ。
半分お兄さんに差し上げて?
私はお姉さんと半分こするわ。
イフ:
…うん、わかった。
お二人とも、こちらに座ってください。
ロレンツ:
本当にすみません、良くしてもらってありがとうございます。
エレーナ:
その代わりと言っては何だけど、イフの話し相手になってあげて欲しいの。
私たちはずっと二人で暮らしているから。
シャーリー:
それはお安い御用ですけど…。
町には行かれないんですか?こんな森の奥では何かと不便では…?
イフ:
不便じゃないよ。菜園があるし、木の実も魚も取れる。
時々、猪(いのしし)や野生の豚も罠で捕るんだ。
ロレンツ:
へぇ、すごいなぁ。
イフ:
この家には本が沢山あるし、分からないことは全部エレーナが教えてくれるから。
エレーナ:
教えてるのは私のわかることだけよ。
シャーリー:
でも学校も行っていないんじゃ友達も出来なくて寂しいわね?
イフ:
ううん、そんなことないよ。昔は…
エレーナ:(さえぎるように)
イフ!
イフ:
あ、えっと…な、何でもない!
ほら、早く食べて!温かいうちに!
ロレンツ:
そうだな、いただきます!
シャーリー:
いただきます。
ロレンツN:
普段食べているシチューよりもだいぶ薄いと感じたが、素朴な味で美味かった。
二人は姉弟(きょうだい)かと聞いたが、違うと言われ、まさか親子かと問えば、また違うと言われた。
エレーナ:
あえて言うのなら、恋人…かしら?
ロレンツ:(声裏返って)
えっ?!?
エレーナ:
ふふ、冗談よ!
シャーリー:
もう、なに本気で驚いてるのよぉ。イフくんはまだ子供じゃない!
イフ:(ボソッと)
僕は…子供なんかじゃない
シャーリー:
あ、えっとぉ、でもイフくんはすごくしっかりしてるわよね!
頭もよさそうだし!
ロレンツ:
そうだなぁ。お前よりすでに頭良さそうだもんな!
シャーリー:
ロレンツだって慣れてるって言ってた森の中で迷っちゃうし、
人のこと言えないじゃない!良いのは体格だけね!
ロレンツ:
なにをぉ?
エレーナ:
お二人はとても仲がいいのね。
シャーリー:
元々、幼馴染なんです。
イフ:
お兄さん、狩りをやるんでしょう?何を捕るの?
ロレンツ:
基本的には鹿かなぁ。でもなんでも狙える。代々狩りの家系なんだ。
あ、そうだ!今回は珍しい鳥を見かけたんです!新種かもしれない!
それを追いかけてたら立ち入り禁止エリアを超えてこんなに奥まで来ちゃって…参ったよ。
エレーナ:
それは災難でしたわね。
イフ:
珍しい鳥って…。
シャーリー:
私にいいところ見せようとして調子に乗ったんでしょ?
ロレンツ:
はは、それもあるけど、もし新種だったら名前を付けられるんだぞ?
すごいことじゃないかぁ。
シャーリー:
まぁね~。
でも、禁止区域の中に家があるなんて…知りませんでした。
エレーナ:
この森は…、いえ、この辺りは古くからの私有地なの。
ロレンツ:
そうだったんですね、すみません、勝手に入ってきてしまって。
エレーナ:
いいのよ。此処に来れて本当に運が良かったわね。
夜は狼が出るのよ。
イフ:
ねぇ、お兄さんとお姉さんは付き合ってるの?
シャーリー:(ふざけた調子で)
えぇ、まぁ一応ね?
でも彼、なかなかプロポーズしてくれないんだけどぉ?
ロレンツ:
おいおい!
全員:
(それぞれ楽しそうに笑って下さい)
(間)
ロレンツN:
その後、「客室」だという部屋に案内された。
ベッドが一つしかないが恋人同士だから大丈夫ね、といってエレーナは微笑んだ。
イフは、俺たちに慣れたのかもっと話したそうにしていたが、
エレーナに窘(たしな)められて、少し寂しそうに「またね」と言った。
シャーリー:
つっかれたぁ。でも良かったね、野宿になってたら絶対危なかった。
ロレンツ:
あの二人、とても良い人達だけど、女性と子供二人だけで住んでるなんてやっぱり変じゃないか?
この森に人が住んでるなんて聞いたこともねーし。
シャーリー:
古くからの私有地だって言ってたけど、確かに聞いたことないね。
まぁ、明日すぐに出て行けば大丈夫じゃない?
ロレンツ:
そうだな。早く寝ちまおう。
シングルベッドなんだからくっついて寝ないとな。
シャーリー:
変なことしないでよね?ここは人の家なんだからぁ。
ロレンツ:
ばぁか、でもおやすみのキスくらいいいだろ?
シャーリー:
えー?
ロレンツ:
短いやつ!
シャーリー:
ん~。…短いやつよ?
ロレンツ:
了解…。
ん…。
シャーリー:
え…?終わり?!
ロレンツ:
短いやつっておまえが言ったんだろー?
シャーリー:
バカっ!いじわる!
寝る前にトイレ行ってくるぅ!
ロレンツ:
はいはい、すぐ戻って来いよ?
シャーリー:
わかってるもん!
ロレンツN:
俺が昔読んだ魔女の絵本を思い出す。
森の奥で、黒づくめの服を着た老婆が、迷い込んだ人々を食べようとするのだ。
ヤモリやムカデを入れた紫色のスープをかき混ぜている挿絵が印象的だったが…
そんなのはただのおとぎ話だ。
子供をビビらせるための、いわば演出。
現実には、いるわけがない。
シャーリー:
えーっと、トイレは、っと…?
エレーナ:(こそこそ声で)
人が訪ねてきたのは何十年ぶりかしらね?
イフ:(こそこそ声で)
エレーナ…もうやめよう…?
あの人たちはいい人たちだよ…。
シャーリー:(小声)
ん?この部屋から声が聞こえる。
あの二人がどんな関係か気になるし…ちょっと盗み聞きしちゃおっと!
エレーナ:
どうして人間の身体はこんなにも脆いのかしら?
100年も経たずにすぐに朽ちてしまう…
イフ:
ダメだよ、もうこんなこと止めにしよう。
エレーナ、僕はもう嫌だよ。
エレーナ:
またそんなことを言って…困った人ね。
私とずっと一緒にいたいと言ってくれたのに、あれは嘘だったの?
イフ:
嘘なんかじゃないさ!君のことを本当に愛してる。
出会った瞬間からずっとだ、変わらず愛してるよ!
エレーナ:
だったらどうして…?
イフ:
僕らの都合で、罪のない人を巻き込んでしまうのが辛いんだ…
エレーナ:
イフ…貴方は優しい人だわ。
そんな貴方だからこそ、私も愛してしまったの…
イフ:
あれから、僕は何回身体を入れ替えた…?
もう心が壊れそうだよ…っ(泣き始める)
エレーナ:
泣かないで…私がずっとそばにいるわ。大丈夫よ。
シャーリー:
(一体何の話をしているの…?)
イフ:
それに、僕はもうあの痛みに耐えられそうもない…
エレーナ:
分かるわ。身を引き裂かれるような痛みよね…
ごめんなさい、それだけは本当にどうにもしてあげられないの…
イフ:
もう十分君と一緒にいられた…。
頼む、もう僕を開放して欲しいんだ…
エレーナ:
ダメよ…!私を独りぼっちにするの?
そんなの嫌…っ!お願いよ、イフ…!
イフ:
あぁ、泣かないで。愛してるよ、エレーナ。
僕は、一体どうしたらいいんだ…。
エレーナ:
選択肢は一つよ。
大丈夫、貴方は今度もきっと耐えられる。
私を信じて…?
イフ:
怖いよ…震えが止まらない…。
エレーナ:
大丈夫よ…大丈夫…。
ねぇイフ、今度の身体は、女の子の方にしましょう?
シャーリー:
(え…?女の子の方って、何?…まさか私のこと?!)
イフ:
シャーリーにするのか…?
エレーナ:
ロレンツの方は体格が良すぎるわ。初めて会った時の貴方は、線が細かったもの…
イフ:
何度も身体を入れ替わっているから、自分がどんな姿だったかもう思い出せないよ…。
覚えているのは男だってことと年齢だけだ。
今はこんな少年の身体に入っているけど、君と初めて出会った時、僕は25歳だったね。
エレーナ:
そうね。私はその時の貴方をちゃんと覚えてるわ。
それに、姿は変わっても貴方は貴方よ。
イフ:
…ロレンツの方はどうするんだ?
お願いだから殺さないであげてくれ。
シャーリー:
(ヤバい…!よくわからないけど、こいつら絶対ヤバい!!彼に知らせなきゃ!!)
(間)
ロレンツ:
お~おかえり。遅かったな?
シャーリー:
ねぇ、今すぐ逃げよう?!アイツらなんかおかしいよ!!
ロレンツ:
おいおい、一体どうしたんだよ?
シャーリー:
二人が話してるのを聞いたの…!
「次の身体はシャーリーにしよう」とか「ロレンツは殺さないであげて」とか…
とにかくそんなことを相談してたのよ!
ロレンツ:
しーっ!落ち着けよ?
本当なんだな?確かに聞いたんだな?
シャーリー:
もちろんよ!こんな怖い嘘、私がつくと思う?!
お願い、今すぐ出よう?!
ロレンツ:
わ、わかった…。
窓から出よう!ほら、荷物を持って。
シャーリー:
う、うん…!
(間)
ロレンツ&シャーリー:(走る)
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…!
シャーリー:
ねぇ、さっきここを通らなかった?!
ロレンツ:
磁石がイカレてるから町への方角はわからないが、
でも真っすぐ走ってるんだぞ?!グルグル回ってるなんてことありえな…
シャーリー:
きゃあ…!
ロレンツ:
シャーリー、大丈夫、か?!
…って、あれ?シャーリー?
嘘だろ?今までここに居たのに!一体どこに?!
イフ:(エコーかけられる人はかけて下さい)
赤い 木の実を 辿って …
ロレンツ:
え?!この声はイフ?イフなのか?!
イフ:(エコーかけられる人はかけて下さい)
ごめんなさい 君だけでも どうか 逃げて …
ロレンツ:
赤い木の実が向こうに続いてる…。これを辿れば町へ戻れるのか?!
ヘンゼルとグレーテルじゃあるまいし!ふざけんじゃねぇ!
シャーリーをどこへやった!?!
イフ:(エコーかけられる人はかけて下さい)
もう二度と この森には 来ないで 本当に ごめんなさい …
ロレンツ:
おい待てっ!答えろ!?
シャーリー!何処だ?!シャーリーっ!!!
(間)
シャーリー:
…ん…、あれ?ここは…?
エレーナ:
目が覚めたのね。
シャーリー:
え…なんで、私、縛られてるのッ?!
エレーナ:
縛っておかないと大暴れしちゃうから。
ごめんなさいね…
イフ:
…うっ…
シャーリー:
イフくん!どうして?どうしてイフくんまで縛られてるの?!
エレーナ:
言ったでしょ?暴れてしまうからよ。
シャーリー:
どういうことなの?!一体何が起こってるのよ!?
ロレンツはどうしたの?!
…まさか、殺したの?
嫌よ、いやぁああー…!っうぅ…(泣く)
イフ:
うぅ…大丈夫だよ、彼は逃がしてきたから…
エレーナ:
イフ、また無理をして意識を飛ばしたのね?
彼に帰り道を教えてしまったの?
イフ:
どうせこの森を出れば、案内鳥(あんないちょう)がいない限り、二度とここへはたどり着けない。
逃がしたって大丈夫だよ。
シャーリー:
案内鳥(あんないちょう)って、なに…?
イフ:
お姉さんたちが「新種の鳥かもしれない」と言っていた鳥のことだよ。
案内鳥(あんないちょう)が現れるのは、この家に人間を呼ばなければならない時だけなんだ…。
シャーリー:
私達があの珍しい鳥を見つけたのは偶然じゃなかったってこと?!
私をどうするの?!殺すの?!
それとも…食べるの?!
エレーナ:
そんなことしないわ。
シャーリー、貴方は大事な大事な、
イフの『新しい器(うつわ)』なのよ。
シャーリー:
う、器(うつわ)…?
イフ:
僕の体はもう限界なんだ…。
もう70年くらい、この子供の身体を使ったから…きっともう寿命なんだね。
シャーリー:
な、70年って…
エレーナ:
貴方に恨みはないの。それだけは信じて。
イフ:
エレーナはね…永遠の命を持っているんだ。
僕はそんな彼女に恋をして、僕達は恋人になった。
でも僕はただの人間だったから…
エレーナ:
人間の身体は長く持って100年余り。
イフが私と永遠に一緒にいるためにはね?
『魂を引き剥がして新しい身体に入れる』しかないの。
そうすれば私は、イフの魂とずっと一緒に居られるというわけ。
イフ:
巻き込んで本当にごめん…ごめんよ、シャーリー…!
彼女を説得出来なかった僕が悪いんだ。恨むなら僕を恨んでくれ…
シャーリー:
あっ…ああ、そんな…!
それじゃあ貴方が、「永遠の魔女」…?
嘘よ、そんなの御伽噺(おとぎばなし)じゃない!!
エレーナ:
貴方の身体、大事に使わせてもらうわね…。
(SE:扉が勢いよく開く音)
ロレンツ:
ふざけんじゃねー!!
イフ:
なっ?!?
シャーリー:
ロレンツっ!!
ロレンツ:
シャーリー!今助けるからな!
化物め!これでも食らえッ!
(SE:銃声(1発))
ロレンツ:
なっ?!弾が、弾かれた…?!
イフ:
エレーナにそんなもの利くわけがない!
どうして戻って来たんだ?!せっかく逃がしてあげたのに!
ロレンツ:
大事な女を置いて逃げるなんざ、ありえねーだろ。
エレーナ:
ロレンツ、貴方は勇敢で、彼女をとても愛してる。
でも、馬鹿だわ。
イフ:
ロレンツ!逃げろーっっ!!
ロレンツ:
ぐっ…!!は、…がっ…!息、が…でぎな…っ!
シャーリー:
いやあああ!ロレンツ!!
何なの?!見えない何かが、ロレンツの首を絞めてるっ!
イフ:
ダメだよ、エレーナ!彼を殺さないで!
エレーナ:
イフ、案内鳥(あんないちょう)が此処に人を連れてきたということは、
もう、貴方の身体を入れ替えなければならない時期ということよ。
イフ:
わかってる!でもシャーリーだけで良いはずだろ?!
せめてロレンツだけでも助けてあげてくれ!
エレーナ:
魂を剥ぎ取る間、私は無防備になる。
その間にこの男に邪魔をされて、魂の入れ替えに失敗したら困るわ…!
ロレンツ:
げえ…っうぅ゛…あ゛…!
イフ:
それでもダメだよ!お願い殺さないでくれ…!
せめて、犠牲は最小限にしたいんだ!お願いだ、エレーナ!
僕と一緒に居たいのなら、言う事を聞いてくれ!!
エレーナ:
イフ…そんなは言い方ずるいわ…(力を解く)
ロレンツ:
ぶはぁ!げほっげほっ…!
エレーナ:
邪魔されないように銃を取り上げて、彼も縛っておきましょう。
それでいい…?
イフ:
ありがとう、エレーナ…!
ロレンツ:
ぐっ!勝手に縄が巻き付いて?!くそぉっ!離せぇ!
エレーナ:
さぁ、始めるわ…。
スーハ―(深呼吸)
シャーリー:
いや…何をするの?!私に触らないでッ!
エレーナ:
貴方の魂を剥ぎ取るわ。
そして空っぽになった貴方に、イフの魂を入れ替える。
貴方は、『イフに成(な)る』のよ。
シャーリー:
いや…!やめて!お願い助けてッ!!
エレーナ:
痛いけれど、せめて早く終わるように力を尽くすわね…
本当にごめんなさい…。
ロレンツN:
エレーナは悲しそうに言って、シャーリーの胸に掌を当て、グッと押し込んだ。
すると、彼女の胸にズブズブと掌が沈んでいく。まるですり抜けていくかのようだった。
シャーリー:
い゛っ…!痛いッ痛いぃい゛あああ!!!
ロレンツN:
彼女はでたらめに身体を痙攣させ、縛られている椅子ごとガタガタと音を立てた。
俺はその恐ろしい光景に、息をするのも忘れ、まばたきも忘れ、ただその非現実的な光景を凝視していた。
イフ:
くっ…見ていられない…っ
シャーリー:
あああぁぁあああ゛あ゛!!
ロレンツ:
や…っやめろ…お願いだ…やめてくれッ!!
シャーリーぃぃぃぃ!!!
(間)
エレーナ:
はぁ、はぁ、はぁ…っ!
ロレンツN:
その時間はたったの数秒とも数時間とも思えた。
シャーリーの胸からゆっくりと手引き抜いた魔女の手には、
淡くピンク色に輝く、小さな丸い玉が乗っていた。
エレーナ:
ほら、綺麗に取り出せたわ…これが彼女の魂よ。
ロレンツ:
あ…あぁ…シャーリー…
エレーナ:
見て、淡く光って綺麗でしょ?まるでビー玉のよう…
ロレンツ:
そんな…うそだ…うそだ…うそだ…
エレーナ:
せめてこれは貴方に返すわね。
ロレンツN:
エレーナは小さな小瓶にビー玉のようなシャーリーの魂を優しく入れて、俺の胸ポケットにソッとしまった。
エレーナ:
さぁ、次は貴方の番よ、イフ。
シャーリーの身体の細胞が死ぬ前に、貴方の魂を入れ変えなければ。
イフ:(震えて)
怖いよ、エレーナ…。
魂の入れ替えは激痛なんだ…、生きたまま身体を切り裂かれるようなんだよ…?
エレーナ:
永遠を生きる私と、人間の貴方がずっと一緒にいるためには、
魂を剥ぎ取って、新しい身体に入れ変えていくしかないのよ…。
イフ:
わかってる…わかってるよ…ふっ…うぅ…(泣く)
エレーナ:
その少年の魂を抜き出した時も、貴方はそうやって泣いていたわね…。
イフ:
僕たちは、一体いつまでこんなことを…
エレーナ:
もちろん…
『永遠』によ。
イフ:
うっ…あ゛ああああああ゛あ゛あ゛!!
ロレンツN:
シャーリーにしたことと、全く同じことが行われた。
イフの胸の辺りにエレーナの手が沈んでいく。
イフが痛い痛いと泣き叫んでも、エレーナはやめようとはしなかった。
そして、ゆっくりと手が抜けると、イフの身体はぐったりと動かなくなった。
エレーナ:
はぁ…はぁ…
ロレンツ:
おまえ、は…なん、なん、だ…
エレーナ:
見て…私の愛したイフの魂は、青いのよ…
ロレンツ:
にんげん、じゃ、な、い…あくま、だ…
エレーナ:
愛した人と永遠に一緒にいるためなら、私は悪魔にだって魂を売るわ。
貴方も、シャーリーを愛していたのならわかるでしょう?
ロレンツ:
あ、く、ま、だ…
エレーナ:
いいえ。現実には悪魔なんていないの。神様もいない。
この世に存在するのは、『私か、人間か』。
そのどちらかだけよ。
ロレンツ:
えい、えん、の…ま、じょ…
エレーナ:
イフがどうしても貴方を殺すなというから…。
今回だけは特別に、貴方を生かして帰してあげるわね。
ロレンツ:
ま、じょ、…シャーリー、… まじょ、シャーリ…ぃ
エレーナ:
貴方の心が完全に壊れる前に、記憶は消しておいてあげるわ…。
…どうか貴方に、
もう一度愛する人が見つかりますように…。
ロレンツN:
魔女は優しく、そして悲しげにそう呟き、俺の額に小さなキスを落とした。
すると、瞼が鉛(なまり)のように重くなり、強烈な眠気が襲ってきた。
霞(かす)む視界の中、俺は見た。
魂が抜けてぐったりとしたシャーリーの胸に、
魔女が、イフの青い魂を入れていた。
~~~~~~
※注意※
これ以降、シャーリー役の人がイフとなります!
身体はシャーリーなので、声のトーンはシャーリーのままでOK。
でも中身はイフなので、口調は男口調になります。
~~~~~~
イフ(シャーリー役の人が演る):
よいしょっと…!ふぅー出来た。
エレーナ:
立派なお墓が出来たわね。
イフ(シャーリー役の人が演る):
前のイフは70年も使わせてもらったからね…。
ちゃんと弔ってあげないと。
エレーナ:
そうね…。
イフ(シャーリー役の人が演る):
どうしたんだ?元気がないね?
エレーナ:
ごめんなさい…。魂の入れ替え、痛かったでしょう?
貴方はもう終わりにしたいって言ったのに…私…
イフ(シャーリー役の人が演る):
もういいんだ…。僕の方こそごめん、君とずっと一緒にいるって言ったのに…
エレーナ:
どうしたらいいかわからないわ…。
どうして私は死ねないの?
イフ(シャーリー役の人が演る):
君は『永遠の魔女』だ…。
この世にたった一人の。
エレーナ:
どうして私なの?どうして私だけが永遠に生きなければならないの…。
イフ(シャーリー役の人が演る):
わからないよ…。
でも僕も、そんな『永遠の魔女』に恋をした唯一の男だ…。
あ、今は身体が女の子になっちゃったけど。
エレーナ:
ふふ、そうね。
でも姿が変わっても、貴方は貴方よ。
イフ(シャーリー役の人が演る):
君は出会った頃から何も変わらない。
エレーナ:
愛してるわ、イフ…。
イフ(シャーリー役の人が演る):
僕も愛してる、エレーナ。
エレーナ:
いつか二人が…
イフ(シャーリー役の人が演る):
共に死ねる、その日まで…。
(間)
医者:
ロレンツさん、その後どうですか?何か思い出せましたか?
ロレンツ:
…いえ、何も。思い出そうとすると頭痛が酷くて。
医者:
そうですか。無理はしないことが大事です。
精神が落ち着くお薬はまだ必要ですか?
ロレンツ:
いえ、結構です。これを握っていると、とても心が落ち着くことに気が付いたので。
医者:
あぁ、貴方が森の入口付近で倒れていた時に、唯一所持していたものですね?
ロレンツ:
そうです。
医者:
綺麗ですね。淡くピンク色に光っているような…?
瓶に入っているのはビー玉ですか?
ロレンツ:
多分。
何故かは分かりませんが、見ているととても穏やかな気持ちになります。
医者:
そうですか、それは良かったですね。
大事にして下さい。心の支えがあるということはとても良い事です。
ロレンツ:
はい…!
医者:
さて、昨日は物の名前を憶えているかテストをしましたから…
今日は字を読めるかテストしていきますね。
簡単な絵本を読んでもらいます。
ロレンツ:
これは…?
医者:
魔女の絵本ですよ。
ロレンツ:
…ま、じょ…?
医者:
どうかしましたか?
ロレンツ:
…いえ、…何でもありません。
医者:
では最初から。ゆっくりで大丈夫ですよ。
ロレンツ:
むかし むかし ひろい もりの おく ふかくに
えいえんの いのちをもつ まじょが すんでいました
あるひ かのじょは ひとりのせいねんに こいを してしまいました …
End.
0コメント