KILL or KILL(5人台本)
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●上記イメージ画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。(配役等の文字入れ可)
PV風動画作成しましたので、良ければぜひご覧ください。↓
●ディック(不問)
●ダリル(不問)
●少女♀
売人(不問)
少女:(タイトルコール)
KILL or KILL (キルオアキル)
#01「hungry for…」
(シャープゼロイチ ハングリーフォー)
N:
銃を構えた男が慎重に扉を開けると、
その部屋はむせ返る血の匂いで満たされていた。
部屋中に「人」だったはずの部品(パーツ)が、転がっており、
その中心には、全身を血で染めた、小柄で痩身(そうしん)の人物が立っていた。
髪はショートだったが、血で濡れた重たい前髪のせいで表情は見えない。
ザイール:
…ほう。てめぇが一人でこれをやったのか?
少女:
はぁ、はぁ…くっ…まだ、…居たッ…!!
N:
その人物は、苦しそうにしながらも態勢を整え、
まるで邪魔な虫を払うかのように、おもむろに左手で宙(ちゅう)を払った。
ギュン、という小さな音と共に、
細いワイヤーのようなものが発射される。
ザイール:
チッ!こざかしい真似を…!
N:
男の構えていた銃身にワイヤーが巻き付き、ギチギチと音を立てる。
少女:
邪魔、しないで…ッ!!
ザイール:
…ん?…てめぇ、女か?
少女:
おん、な…?そんなこと、どうでもいい…!
どいてよ…どうしてみんな私の邪魔をするのッ?!
N:
女は、銃身に巻き付いたままワイヤーを巻き取り、一瞬で男との距離を詰める。
それと同時に拳撃(けんげき)を繰り出すかのように右手を構えていたが、
その拳は握られておらず、右手首の甲を前に出すような構えだった。
ザイール:
(拳撃じゃねぇ…!右手もワイヤーか…!?)
N:
男の読み通り、右手の甲からワイヤーが飛び出してきた。
ガキンと強い衝撃音が響き、男の顔面を狙ったワイヤーが弾かれる。
ザイール:
やってくれるじゃねーか。
少女:
クッ…!!二丁、拳銃…!?
N:
男は、ワイヤーを弾いた銃の反動が来るか来ないかの一瞬で銃から手から離し、
少女の細い右手首を強く掴んだ。
少女:
ぐっ!!離せッ!!
ザイール:
ふっ…頭のてっぺんからつま先まで、見事に返り血で真っ赤だなぁ。
少女:
え…?
ザイール:
え、じゃねーよ。
死体を見る限り、テメーがそのワイヤーで殺ったんだろ?
少女:
あ…あ…、私、は…
N:
少女の瞳が突然揺らぎ、身体が震え始めた。
右手の銃に巻き付いていたワイヤーが緩んだ隙に、
男は女の頭に銃を突きつけた。
少女:
わからない、何も…。
あなた、私のこと…知ってる…?
ザイール:
知らねぇなぁ。だが、足元に転がってるバラバラ死体なら知ってるぜ?
少女:
…コレ、は…人、なの…?
ザイール:
「人」だったモンだ。
少女:
私が、…殺した…?
ザイール:
そいつらは敵対組織のマフィアだ…
好き勝手しやがるから見せしめにぶっ殺してやろうかと思ったが、
まさかテメーみたいなガキに先を越されるとはな…。
少女:
…った…
ザイール:
なんだと?
少女:
…お、腹…すい、…た…
(SE:倒れる音)
N:
少女は、死体の転がる床に無造作に倒れた。
すると、黒髪にスーツ、野暮ったい黒縁眼鏡をかけたアジア系の男が
息を切らしながら部屋に入って来た。
ザイール:
遅ぇぞ。ハル。
ハル:
はぁ、はぁ…ボス!
一人で先に行かないで下さいよ!
ぐっ…!見事にバラバラですね、ノースモアの連中ですか?…うっぷ!
ザイール:
俺が殺ったんじゃねぇ。
ハル:
は?では一体誰が…うっぷ!
ザイール:
そこに空腹で倒れてるガキが殺った。
ハル:
は?この細っこいガキがですか?!
ザイール:
ふ……ふは、あはははは!
ハル:
ボ、ボス…?
ザイール:
このガキを連れていく。運んどけ。
ハル:
へっ?!
し、承知いたしました…!
一体どうなって…うっっっぷ!
(間)
N:
ここは、ガルテーユ共和国という治外法権の国の一角にある、巨大なスラム街。
統治しているのは、オースティンファミリーと呼ばれるマフィア。
ボスはザイール・オースティン。
まだ三十代という若さだった。
この街では、オースティンファミリーへのみかじめ料を払わなければ、
じゃがいも一つ売ることは許されなかったが、その金額は一律ではなく、
経済状況を見て決められていた。
それまで往行していた麻薬の売買も厳しく禁じられ、
結果的に治安は良い方向へと向かっていた。
平和を望む人々、貧しい人々にとってはむしろありがたい存在であった。
だが、その“好意”を裏切れば、報復は非常に恐ろしいものだった。
裏切り者の遺体は、全く原型を留めないことから、“ドッグフード”と呼ばれた。
(間)
ザイール:
あのガキの様子はどうだ。
ハル:
最初にボスが餌付けしてからというもの、
他の者から差し出された飯をなかなか食おうとしません。
「ボスからだから食え」といちいち言わないといけなくて…。
あと女だったんですね。
血を落とすまで、私はてっきり少年かと…。
ザイール:
そんなこたぁどうでもいい。怪我の具合は?
ハル:
あばらが一本折れていただけで、あと擦り傷です。
ですが、身元が分かるようなものもなく、どこの誰なのか…。
あぁ、胸元に変な痣がありました。
ザイール:
痣?
ハル:
はい。おそらく焼き印でしょう。
パズルのピースのような形をしていました。
ザイール:
どっかのマフィアの印か?
ハル:
私もそう思いチェックしましたが、
データベースにはヒットしません。
ザイール:
まぁそれも含めて当人に聞いた方が早ぇ。
ここに連れて来い。
ハル:
お言葉ですが、ボス。
あのガキは危険です。スパイかもしれません。
ザイール:
だからそれを俺が見極めてやろうってんじゃねーか。いいから連れて来い。
ハル:
はい…。
ではせめて、ディックとダリルも呼んでよろしいでしょうか?
ザイール:
あのイカレコンビをか?
ハル:
あのガキは、ノースモアファミリーの
構成員(ソルジャー)5名を一人で潰しました。
うち、2名は偵察部隊のメンツです。
ザイール:
ほう?逃げ足の速い偵察部隊をも逃さず
殺したってのか?
ハル:
そうなります。
今は手当をして少し回復してますし、危険です。
ザイール:
ディックとダリルを呼ぶのはいいが、
暴走しねぇようにお前がきっちり手綱(たずな)しめとけよ?
もし早まって俺のモンを殺すようなことがあれば…
お前もオイシイ“ドッグフード”にしちまうぞ…?
ハル:
…っ(息をのむ)
肝に、銘じております。
ザイール:
アイツらは任務中だったな。
夜にはガキに会う。それまでに戻ってこさせろ。
ハル:
はっ!
(間)
N:
オースティンファミリー管轄区域。
とある倉庫にて。
中性的な容姿をした二人の人物が、
ぶるぶると震える一人の人物の周りを、ゆっくりと歩いて回っていた。
ディック:
ダリル、花占いって知ってますか?
ダリル:
花びらを一枚ずつ千切って、好き嫌いを占うやつだよねー?
ディック:
残酷だと思いませんか?花だって生きているのに。
ダリル:
ねぇ、ディックぅ。
コイツの生死も花占いで決めちゃうー?
ディック:
いいですね、そうしましょうか。
売人:
なぁ…なぁちょっと!!
すまなかった!謝るから!何でもするから!出来心だったんだ!
ちょーっとドラッグをスラム街で売りさばいただけじゃないか!
ダリル:
ここで商売するには、ボスの許可がいるって知ってるよねー?
しかもドラッグー???いいなぁいいなぁボクにも売ってよー??
売人:
へ?も、もちろんっ!!見逃してくれたらタダでやるよっ!
在庫全部!全部やるから!だから見逃してくれッ!
ダリル:
だってさ、ディックー。
コイツ、まだ在庫を隠し持ってるってー。
ディック:
オカシイですねぇ?
さっき、持っているのはこれだけだと言いませんでしたか?
売人:
あ、あ、いや違う、違うんだ違う違う違う!!
すまない、頼むから助けてくれっ!!
ディック:
そんなに取り乱さないで下さい。
花占いで決めると言っているでしょう?
あなたにはまだ、無罪放免になる可能性があるのですよ?
ダリル:
でもさぁディックー。こんな寂びれた倉庫の中に花なんかないよー?
ディック:
ははは。お花なら、いつだってあなたの頭の中に咲いているでしょう?
ダリル:
あはははははは確かにぃぃぃ!!
僕の頭の中はお花畑だって、ボスにも褒めてもらったんだよー!いいでしょお?
売人:
ひ…っ狂ってる!おまえら全員狂ってるッ!!
ディック:
そうでしょうか?
俺にはあなたの方がよっぽど狂っていると思いますけどね。
ボスに黙ってこの街でドラッグを売りさばくなんて、
そんな恐ろしいことよく出来たものです。
ダリル:
ディック~。早く花占いしよーよーっっっ!
ディック:
はいはいわかりましたよ。
では、ダリルの頭の中にあるお花で、花占いをしましょう。
何色の花にしますか?
ダリル:
もちろん、血みたいに真ぁぁっ赤な花だよー?
売人:
嫌、イヤだっ!やめてくれ…頼むよ…うううっ
ディック:
では、始めますよ。
――殺さない
ダリル:
――コッロス~♪
ディック:
――殺さない
ダリル:
――コ~ロス~♪
ディック:
――殺さない
ダリル:
――コロスぅ♪
ディック:
――殺す
ダリル:
――コロスぅぅ♪
ディック:
――殺す
ダリル:
殺すぅぅぅぅぅぅ!!あはははは!!
ディック:
残念でしたね。
花占いの結果、あなたは死刑です。
売人:
こんなのずるいだろ!!
無罪にするつもりなんかハナからないじゃないかっっ!!
ダリル:
しーっ!うるさくすると、
ディックがイライラしちゃうからっ、しーっ!!
ディック:
五月蠅いのはダリルだけで十分なんですよ。
売人:
じ、じゃあ情報をやるよ!!取引しようッッ!!
ダリル:
へー?どんなすんごい情報を持ってるってー??
ディック:
ダリル、こんな下っ端が、取引出来る材料なんて持っているわけありませんよ。
まずはこれで口を縫い付けてから、拷問して下さい。
売人:
なっっ!!!
ダリル:
お裁縫セット持ち歩いてるなんて、ディックって女子力たかーいっ!イヒヒヒ
ディック:
馬鹿なこと言ってないで、手を動かして下さい?
上唇と下唇に、交互に針を通すんですよ?
ダリル:
はーい!ほらほら、おとなちくちまちょーねー?
売人:
やめろおおおおあ゛あ゛
ダリル:(楽しそうに)
あははははっ!
ハル:
…相変わらず、えげつないことをしていますね。うっ…(←少し具合悪そうに)
ディック:
おや、ハル・カイザキ。
いつの間に。珍しいですね?
オースティンファミリーの顧問(コンシリエーレ) 兼、
側近様がこんなところに居ていいのですか?
ハル:
ディック、貴方が電話に出ないからですよ!
少しは幹部(カポ・レジーム)としての自覚を持って下さい!
拷問中も電話には出るようにと、あれほど言っているのに!
ディック:
それで?一体何のご用で?
ハル:
はぁ…(ため息)。
特別任務がありますので、終わったら迅速にお戻り頂けますか?
ディック:
特別任務?
また街で違法取引をした人物でも出ましたか?
ハル:
いえ、今回は…
売人:
んんんんんんんンン゛ん゛ッッ!!
ダリル:
ああ、よちよち!
動くから鼻にまで針を貫通させちゃったじゃんか~。難しいなぁ…。
ハル:
構成員(ソルジャー)のダリルは…
相変わらずネジが飛んでますね…うっぷ!
ディック:
ネジの飛んでない人間がファミリーにいますか?
ダリルはまだ可愛い方ですよ。
むしろ貴方の方がよっぽど…
ハル:
ゴホン!(咳払い)
今回の任務はボスの護衛というか…、
貴方達を牽制(けんせい)に使いたくて。
ディック:
牽制?俺らは拷問部隊だと思っていましたが?
ハル:
残念ながら、実働部隊がいま遠征していまして。
貴方達なら血だらけで立っているだけでも、十分恐ろしいですし。
ディック:
それはまぁ否定しませんが。
でも護衛ならあなた一人で十分なのでは?
ハル:
いえ。私なぞ。
ディック:
ふーん…。まぁいいでしょう。
脅かしたいなら、“手土産”は持って行った方がいいですね?
ハル:
はい。出来れば、拷問した後、服も着替えずに血だらけのまま来て下さい。
ディック:
そんなことでビビるような相手なら俺達じゃなくてもいい気がしますけどね。
ハル:
得体の知れない人物なので、まずは反応を見てみたいんです。
ダリル:(無邪気に)
ディックー!でけたー!ちゃんと唇縫えたよー!
売人:
ひぐ……んン゛ん…
ディック:
相変わらず下手くそですね。
まぁ、静かになったから良しとしましょう。
ダリル:
あれぇ?ハルじゃん!いつ来てたのー?
なにしてんの?混ざるー?楽しいよぉ?
ハル:
いえっ…!わ、私は遠慮しておきますっ!
では、夜に!失礼。
ダリル:
あ、行っちゃった。
あの人、相変わらずグロいものが苦手なんだねー。
夜に何すんのー?
ディック:
ふふ、何か面白いものが見られる予感がしますよ?
…さっさとソレを、ボスが喜ぶようにデコレーションしてしまいましょう。
ダリル:
ボスに会えるの?やったー!
じゃあボクがコイツの体でドッグフード作るーっ!
売人:
ン゛っ!ンう゛ンン(やめろぉ)!
ディック:
では俺は、その残念な顔面をデコレーションしましょう。ふふふ。
(間)
ハル:
ボス、ガキを連れてきました。
ザイール:
おお、入れ。
ハル:
ダリルとディックももうすぐ来ます。
少女:
…っ…。
ザイール:
名前は?
少女:
…名前…わからない…。
ザイール:
どこから来た?
少女:
…わからない。
ザイール:
なぜノースモアファミリーの構成員(ソルジャー)を皆殺しにした?
少女:
…わからない…。
ザイール:
記憶がないのか?
少女:
…わからない。
ザイール:
胸元の焼き印は自分で入れたのか?
誰かにやられたか?
少女:
…焼き印?
ハル:
それは何の印ですか?
正直に話した方が身のためですよ。
少女:
…わからない…なんの形だろう…パズルの、ピース…?
ハル:(小声で耳打ち)
ボス、やはりスパイなのでは…?
ザイール:(考えるように)
ふむ…。
ディック:
失礼します。拷問部隊所属、ディックとダリル、ただいま到着しました。
遅くなり大変申し訳ございません。
ダリル:
ボス―っ!来たよぉ!
ザイール:
二人ともご苦労。ドラッグの入手ルートは吐かせたか?
ディック:
隠し持っていた分まで回収は出来ましたが、
やはり末端(まったん)を掴んだところでトカゲのしっぽ切りです。
ザイール:
ふん…だろうな。
ダリル:
でもみてみてーっ!
これを見せしめにしたらどうかなーってディックと作ったんだー!
ハル:
ぐっ…!
ディック:
『売人のリゾット~新鮮な生首を添えて~』
と言ったところでしょうか?
ハル:
うぐっ…!酷いニオイだ…(吐きそうになる)
ザイール:
ほう。ネーミングはともかく、いいじゃねーか。
明日の早朝、街の中心の広場の目立つところに展示してこい。見せしめだ。
ダリル:
ニュースになるかなぁ?
新聞の一面飾っちゃうかなぁ?!
ディック:
ん?それはそうと、この小汚いガキは誰です?
ハル:
先日、ノースモアファミリーの構成員(ソルジャー)5名を一人で片づけた女です。
ディック:(笑いながら)
またまた冗談を。こんなひょろいガキが?
ザイール:
冗談のためにわざわざお前らを呼びつけたってのか?
俺はそんなに暇に見えるか。あン?
ディック:
し、失礼しました。そういう意味では…。
ハル:
このガキもダリルとディックに拷問してもらいましょうか?
そうしたら何か吐くのでは?
ダリル:
えっ!やーりたーいっ!
ザイール:
…おいクソガキ、コイツらの拷問を受ければこの生首のようになるぞ?よく見ろ。
少女:
この人は…何をしたの…?
ザイール:
ドラッグを売りさばきやがった。
この街ではドラッグの売買は禁止してるってのにな。
これは見せしめだ。
少女:
……。
見せしめにするなら…こうした方がいいんじゃない…?
(SE:グチュ)
ディック:
なっ…!!
N:
少女は躊躇いもせずに、生首の眼球を素手でくり抜いた。
少女:
この目のところにドラッグを詰め込んで広場に展示した方がいい…。
ダリル:(手をパチパチ叩きながら)
あはははは!!サイコー!いい考えじゃーん!!
ハル:
うっぷ…
ザイール:
ハル、ここで吐くなよ。汚ぇ。
ハル:
大、丈夫です…うっぷ…
ザイール:
…いい度胸だ。気に入った。
ハル:
ボス!お願いですからもう少し慎重に…!
ザイール:
記憶があろうがなかろうがどうでもいい。
俺の駒になるか、出ていくか、今すぐ決めろ。
ハル:
選択権を与えるのですか?!
ザイール:
あぁ。駒になるのなら死ぬまで使ってやる。
出ていくのなら無様な野良犬人生を楽しめ。
まぁ、ノースモアの連中には追われるだろうがな。
…もしそのまま敵になるのなら、
“ドッグフード”にするまでだ。
少女:(ぼそっと)
ゴハンは……
ザイール:
あん?
少女:
ゴハンは、もらえる…?
ハル:
はぁ?
ザイール:
あぁ…任務をこなせばいくらでも俺が食わしてやる。
少女:
…私…
ここにいる…!
ザイール:
決まりだ。
ダリル:
餌付けだーっ!あはは!ワンちゃんの餌付けー!
ハル:
スパイ疑惑は全く晴れていません!
もしこのガキがノースモアか、もしくは違う勢力のスパイだった場合…
ザイール:
黙れ。
それはこれから証明してもらうさ。
ハル:
は、はい…。
ザイール:
まずは名前が必要だな…。ふむ。
ダリル:
いいなぁいいなぁ!ボスに名前つけてもらえるなんて、「うらまやしい」…
ん?「うまらやしー」??
ディック:
それを言うなら「うらやましい」、です。
ダリル:
そうそれぇ!へへへ。
ザイール:
…Noir(ノワール)…
少女(ノワール):
ノワール…?
ディック:
フランス語で『黒』という意味ですね。
ダリル:
クロだってー!犬みたい!わんわんっ!
ディック:(苛立ちながら)
五月蠅いですよダリル!お座りっ!
ダリル:
きゃいんっ
少女(ノワール):
どうして、「黒」…?
ザイール:
お前を最初に見た時、返り血で上から下まで真っ赤だった。
いま俺が欲しいのは、赤が幾重にも重なって出来る、どす黒く、深い『黒』だ。
…お前がその『黒』になれ。
少女(ノワール):
赤が、重なって、黒、に…?
ディック:
ボスっ!それなら俺とダリルだってなれます!
もっともっと殺して、ボスがお望みの『黒』を…っ
ザイール:
そう妬くなディック。
何も「赤」の上位互換が「黒」だと言っているわけじゃない。
組織には役割がある。お前らには、新鮮な血の『赤』が相応しい。
ダリル:
わーいボスに褒められたーっ!!(←よくわかってない感じで無邪気に)
ザイール:
めんどくせーことに、今後ノースモアファミリーとの抗争は激化するだろう。
こっちにも切り札があって困ることはない。
ハル:
使えなければ咬ませ犬にするだけ、ですか。
ザイール:
そういうことだ。
少女(ノワール):
私の、名前…ノワール…
ザイール:
ふっ…決まりだな。
(間)
ダリル:
生首、広場において来ないとねー。
噴水の辺りが一番目立つかなぁ?
ディック:(ボソボソと呟く)
あんな駄犬がボスの気を引くなんて…納得できません。
たかだか5人殺したくらいで…。
ダリル:
ねぇディック~聞いてる~?どこに飾るー?
ディック:
気に入りませんね…。
ダリル:
え?噴水んとこじゃダメー?
じゃあなんか変なポーズの石像が立ってるところにするー?
ディック:
どこでもいいですよ!そんな駄作っ!
ダリル:
えーっ!一生懸命作ったのにぃぃぃ。
ディック:
はぁ…すみません、貴方に当たってもしょうがないですね。
…早く飾りにいきましょう。
ダリル:
うん!…あっ、仕上げに花びらも綺麗に散らそうよ!
コイツもせっかく花占いの結果こうなったわけだしさ~!
ディック:
それはいいですね…
ダリル:
なんかテンション低いねー?どしたのー?
ディック:
…ダリル、この生活は楽しいですか?
ダリル:
んー?楽しいよぉ?ボスは褒めてくれるしー、
それに、ディックとずっと一緒にいられるし!
ディック:
そう、ですか…。そうですね。
俺たちはオースティンファミリーの拷問部隊。
小汚い「どす黒さ」より、新鮮な「赤」をボスに献上しましょう。
ダリル:
りょーかーいっ!
ディック:
……ダリル、ほんとに分かってます?
ダリル:
んー…。よくワカンナイ!へへへ。
でも僕はディックと一緒に居られたらそれでいーの!
ディック:
フン…バカ言ってないで行きますよ。
ダリル:
今テレたー?
ディック:
テレてません。
ダリル:
嘘だぁテレたよぉ〜!
あぁ!先行かないでよディック〜!
(十分間を取ってください)
N:
サイドストーリー Vol.1(ボリュームワン)
「ボス、野良犬にご飯をあげる」
ザイール:
血を洗い流してみりゃあ、ますますただのガキだな。
N:
オースティンファミリーのボス、ザイール・オースティンは、
拾ったばかりの少女を見下ろしていた。
痩せてみすぼらしい捨て猫のようであったが、
その瞳は飢えた獣のようでもあった。
少女:(生唾を飲む)
…んっ…
ザイール:
飯が食いたいか?
少女:(頷く)
…ん…!
ザイール:
ここでは働かねぇ奴に食わせる飯はねぇが…
まぁこれは俺の“善意”だ。
少女:
善、意…?
ザイール:
言ったろ?テメーが殺したのは俺の敵だ。
少女:
どうして殺しちゃったのかわからないけど…
多分あなたの為じゃない…
ザイール:
だとしても、だ。
ほれ…食うか?
少女:
食べるっ…!(ハンバーガーを受け取る)
N:
少女は鉄格子から手を必死に伸ばし、
ザイールから半ば奪い取るように食べ物を受け取り、食べ始めた。
ザイール:
そのハンバーガーに挟まっている肉が何の肉かわかるか?
少女:
知らない…!はむっはむっ(食べる)
ザイール:
その肉はな………
N:
その後続けられたザイールの言葉をきくと、
少女の手はピタッと止まり、視線は肉に釘付けになった。
ザイール:
オモテで生きてる連中は、この肉が身近に横行している事を知る由もない。
近年の食料事情に際し、国までもが秘密裏に認めている食材だということもな。
少女:
何が、言いたいの…?
ザイール:
その肉の加工場をまわしてんのは、マフィアだ。
オモテの人間は、何だか判んなくても旨い旨いと肉を食って、金を払う。
少女:
それが私に、なんの関係が…
ザイール:
お前はノースモアの連中を殺した。
お前はもう突っ込んじまってるんだぜ?
このオイシイ肉の正体くらい真っ黒な、こっちの世界に。
N:
少女は、穴が開きそうなほどに肉を凝視していた。
ザイール:
肉の正体を知って尚、お前はそのハンバーガーを食えるか?
N:
しばらくの後(のち)、少女は視線をザイールに向けた。
その瞳は変わらず、飢えた獣のままだった。
少女:
これが何の肉でも関係ない。
私は、生きなきゃ。
N:
少女は再び食べ始める。
誰にも盗られまいと、急いで。
少女:
ゲホゲホっ(むせる)
ザイール:
誰も取り上げたりしねぇよ。
それはお前のモンだ。
少女:(半泣き)
…いしい…っ…おい…、しい…
私は、生きなきゃいけない…
なんでそう思うのかはわからないけど…
何も覚えてないけど…っ
でも、今は生きてる…良かった…っ
ザイール:
『今は』、な。
お前の処遇は後々考える。
覚悟しておけ。
少女:
なんの、覚悟…?
ザイール:
それはお前次第だ。
少女:
…ありがとう…
ゴハン、くれて。
ザイール:
お前から洗いざらい話を聞くためだ。
それ以上の理由はない。
少女:
それでも、ありがとう…。
とても美味しかった…。
N:
この数日後、少女は『ノワール』という名を持つことになる。
この先に待ち受ける運命など、この時は誰も知る由もない。
End.
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